2017/12/31 に公開
<ライブレポ:田中大>
<カメラマン:稲垣 謙一>
Maison book girlにとって4回目のワンマンライブ・東京・Zepp DiverCityで12月28日に行われた『Solitude HOTEL 4F』。
「リアルタイムで体感してこそ伝わるものが多いものとなるはずです」という旨を、総合プロデュースを手掛けるサクライケンタが事前に様々な場面で語っていたこの公演は、おそらく集まった全ての観客にとって未曾有の体験だったのでは? その模様を早速レポートする。
開演前の会場内に入ると、うっすらと白いスモークが立ち込めていた。そして、ステージの背景のスクリーンには明滅する「Maison book girl」というロゴ、日付けと時刻を示す数字が浮かび上がっていたのだが……ん? 時刻はたしかに現在なのだが、「2018 0623」というのが気になる。
ここは約半年後の未来ということなのか?そんなことを考えながらステージを眺めていると、下手側に置かれている長方形の白い扉が目に留まった。あれは何に使うのだろう? ごく普通のようでいて、何処となく不思議な気もしてくるこの空間で、一体何が行われようとしているのか?
開演時刻が近づくと、「2018 0623」は徐々に時間を遡り、「2017 1228」でストップ。するとブザーが鳴り響いて会場内は暗転した。オープニングSEと映像が流れ、開いた白い扉から矢川葵、井上唯、和田輪、コショージメグミが登場。最初に届けられたのは「sin morning」だった。そして「rooms」「lost AGE」「end of Summer dream」「veranda」「bed」も披露された後に迎えたインターバル。
「来てくれてありがとうございます!」「初めて来た人もいるのでは?」「このライブ、あと2、3時間ですけど、6時間くらいの気持ちでいきたいなあと」――リラックスしたムードのMCを経て、「cloudy irony」も届けられ、いつも通りのライブのように感じていたのが……その次の「faithlessness」の途中から、このライブの特異さが、急速に露わになったのであった。
「faithlessness」が終盤に差し掛かると、サウンドが鳴り響き続ける中、メンバー1人1人が白い扉の中に入り、ステージから完全に姿を消してしまった。そして、突然切り替わったスクリーンの時計が示したのは「2018 0112 00:00 00:00」――つまり14日後の未来。「14日前」「13日前」「12日前」「11日前」というメンバーの声が鳴り響く毎に日付けは逆行し、今日=「2017 1228」でストップしたのだが……時刻は「19:00」。おや?現在時刻より少し前ではないか(この時点で、実際には19時40分くらいだったと思う)。
狐につままれた気分でいると、今日のライブのオープニングを飾ったSEと映像が流れ、先ほどと全く同じようにメンバーが現れ、再び「sin morning」と「rooms」が披露された――ここまでは40分くらい前の繰り返しだったのだが、その次の曲は「言選り」。ここから差異が生じ始めていた。エンディングで鍵が床に落ちる音が鳴り響くと、鍵を拾って白い扉を開き、その中へと吸い込まれていったメンバーたち……。
これはあくまで私の勝手な解釈であることをお断りしておくが――この辺りから今回のライブの世界が、少しずつ分かりかけてきた気がするので、紹介しておこう。ステージ上の時計が示していた通り、このライブは「約半年後→現実通りの時刻→14日後→日付は今日だが、時間が少し逆行/オープニングを再現した後、途中から差異が発生」という時間の流れを辿ってきた。
つまり、未来、現在、過去の間を行き来したわけだが、「日付は今日だが、時間が少し逆行/オープニングを再現した後、途中から差異が発生」という部分は、あり得たかもしれないもう1つの現実=パラレルワールドを示していた――と解釈できるのではないだろうか? そう考えると、その後の展開も、とても腑に落ちるものとなっていた。
再登場した4人によるポエトリーリーディング「雨の向こう側で」の後に突入した演劇的なひと時――ノイズとレーザービームの雨が降る中、衣装や普段着風の服などを身に纏ったメンバーたちがステージ上を行き交った場面は、未来、現在、過去、パラレルワールドなど、様々な世界が複雑に絡み合った空間をイメージさせた。その後、引き続き「日付は今日だが、時間が少し逆行」=「2017 1228 19:20頃(我々がいる現実の時刻は20時過ぎ)」のライブは続き、「townscape」「blue light」「十六歳」「karma」を経て、またタイムスリップが始まった。まず辿り着いたのは「2017 0509 19:00」。
3回目のワンマンライブ『Solitude HOTEL 3F』が赤坂ブリッツで行われた日付であることを示すかのように、あの時もたしかオープニングで流れたはずのインストゥルメンタル「ending」が鳴り響いた。そして、再び時間を遡るタイムスリップに突入し、時計が示したのは「2014 1124 17:10」。Maison book girlが初ライブを行った日付けと時刻だった。
当時の衣装(正確に当時の衣装かどうかは不明だが、その頃のものと似ていた)を着た4人が披露したのは「bath room」と「last scene」――我々が辿った現実では、この時のメンバーは、矢川葵、井上唯、コショージメグミ、宗本花音里であり、和田輪はまだ加入していない。しかし、和田がいる4人編成によるMaison book girlも、もう1つの、あり得た世界なのかもしれない。
懐かしさと虚実が入り混じっている……という幻想的なパフォーマンスが繰り広げられた後、「これがMaison book girlです!ありがとうございました!」と、まるで新人グループであるかのようにメンバーを代表して挨拶をしたコショージ。
4人全員が「ありがとうございました!」と言い、ステージから去ると、今日のライブのオープニングを飾ったSEと映像が再び流れた。そして、客電が点灯して会場内が明るくなると、ステージ上の時計は「2017 1228 20:46」――現実の日付と時刻を示していた。
こうして終演を迎えた『Solitude HOTEL 4F』。最高の音楽体験だったのは勿論だが、演劇的でもあり、覗き込んだ万華鏡のようでもあり、迷い込んだ異世界のようでもあった。このレポートを書いている時点で終演から数時間しか経っておらず、私もまだ完全に咀嚼しきれていないが、さらに何度も思い返すことによって、様々な発見、解釈、妄想ができそうだ。
そういえば、「終演後、開封してください。」という文字がプリントされた封筒を入場する際に貰い、言われた通り終演後に開いたら、英語の詩が書かれた紙が入っていた。ロビンソン・ジェファーズという詩人による「To an Old Square Piano」という詩らしい。その裏面には、今日のライブで我々が辿った時間の動きを示しているように感じられるグラフィックが広がっていた。「20180623」から始まり「20180623」で終わるこの線、図形、文字が示すのは何なのか?この点もじっくり想像してみようと思う。
現代音楽風の変拍子、意表を突く展開、ユニークな動きを満載したダンス、AI(人工知能)に過去の楽曲の歌詞をディープラーニングさせて紡ぎ出された言葉をもとにして作詞を行った「言選り」に代表されるような独特な創作手法など、斬新なアプローチを満載しつつ、全てをポピュラリティに溢れた音楽へと昇華しているMaison book girl。
そのかけがえのない魅力が生の現場でも燦然と輝いたのが、今回のワンマン公演であった。聴覚だけでなく、あらゆる感覚を無限に刺激してくれるこのユニットの活動は、とんでもないほど刺激的だ。未体験の人は早速楽曲を聴き、なるべく早めにライブ会場に足を運んだ方がいい。一生手放したくない素晴らしい世界が、あなたの目の前に現れるはずだ。
Maison book girl 公式サイト
http://www.maisonbookgirl.com
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